矯正歯科

2026-08-18

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矯正に保険が使える条件とは?厚生労働省の通知をもとに解説

矯正の保険適用 書類 イメージ

矯正治療が公的医療保険の対象になる条件を、厚生労働省の通知原文に基づいて解説。届出をした医療機関でなければ適用されないという重要な要件と、その調べ方まで。

※写真はイメージです

「矯正治療に保険は使えますか」——多くの方が最初に確認されることです。原則として矯正治療は自由診療ですが、法令で定められた条件に当てはまる場合には、公的医療保険の対象になります

この記事では、東京銀座NOVA矯正歯科が、保険適用の条件を厚生労働省の通知原文に基づいて正確に解説します。あわせて、多くの解説記事が見落としている「届出をした医療機関でなければ保険が使えない」という決定的な要件と、その医療機関の調べ方までご案内します。個別の該当可否は歯科医師の診断が必要です。

保険適用の条件 — 通知原文が定める4つの類型

矯正治療は「次のいずれかに該当する場合に限り」保険診療の対象とされています。つまり限定列挙であり、ここに挙がっていないものはすべて自由診療になります。「審美目的は対象外」という個別の条文があるのではなく、列挙されていないから対象外という構造です。

厚生労働省の通知(令和8年3月5日 保医発0305第6号)別添2「歯科点数表」第13部 歯科矯正 通則1に定められた内容を整理します[1]

類型条件
別に厚生労働大臣が定める疾患に起因した咬合異常
3歯以上の永久歯萌出不全に起因した咬合異常(埋伏歯開窓術を必要とするものに限る)
18歳未満の患者であって、連続した3歯以上の先天性欠如歯に起因した咬合異常
顎変形症(顎離断等の手術を必要とするものに限る)の手術の前後における療養

ご注意ください。解説記事の多くは「3類型」と書いていますが、これは③が令和8年度の改定で追加される前の情報です。本記事は厚生労働省の現行通知に基づいて4類型として記載しています。

なお①〜③は「歯科矯正診断料」の、④は「顎口腔機能診断料」の施設基準を届け出た医療機関で行う場合に限られます(後述)。

① 厚生労働大臣が定める疾患(68疾患)

先天性疾患に起因する咬合異常が対象になりますが、どんな先天性疾患でもよいわけではなく、厚生労働大臣が定めたリストに掲載されている疾患である必要があります。現行では68疾患が指定されています[1]

代表的なものを挙げます。

  • 唇顎口蓋裂
  • ゴールデンハー症候群
  • 鎖骨頭蓋骨異形成
  • トリーチャ・コリンズ症候群
  • ピエール・ロバン症候群
  • ダウン症候群
  • ターナー症候群
  • マルファン症候群
  • 頭蓋骨癒合症(クルーゾン症候群および尖頭合指症を含む)
  • 6歯以上の先天性部分無歯症
  • グリコサミノグリカン代謝障害(ムコ多糖症)
  • ガードナー症候群(家族性大腸ポリポージス)
  • 原発性低リン血症性くる病
  • ロイス・ディーツ症候群

そして知っておく価値のある条文があります。リストの最後は「その他顎・口腔の先天異常」という包括規定になっており、通知はこう定めています——「顎・口腔の奇形、変形を伴う先天性疾患であり、当該疾患に起因する咬合異常について、歯科矯正の必要性が認められる場合に、その都度当局に内議の上、歯科矯正の対象とすることができる」[1]

リストに載っていないからといって、道が完全に閉ざされているわけではないということです。

また通則9により、これらの治療は「育成医療及び更生医療を担当する保険医療機関からの情報提供等に基づき連携して」行われるとされています。算定にあたっては、当該疾患の治療を行った医科の医療機関からの情報などにより、患者さんがその疾患を現に有することが確認された場合に限られます[1]

② 永久歯の萌出不全/③ 先天性欠如歯

② 3歯以上の永久歯萌出不全

条文には「(埋伏歯開窓術を必要とするものに限る)」という条件が付いています。さらに算定要件では、次のように具体化されています[1]

  • 対象は前歯および小臼歯の永久歯のうち3歯以上の萌出不全である場合に限る
  • 上下顎前歯・小臼歯のうち3歯以上の「骨性の埋伏永久歯」(経時的なパノラマエックス線撮影を含む経過観察で、明らかに歯の移動が認められない永久歯)であることが確認された場合
  • さらに、その埋伏永久歯が隣接する永久歯の歯根吸収の原因になっている場合、歯軸等の異常により萌出困難な場合、または歯根彎曲などの二次的障害を生じる場合に限り算定できる

「歯が生えてこない」というだけでは足りず、経過観察による確認と、二次的障害の存在まで求められる厳格な要件です。

③ 連続した3歯以上の先天性欠如歯(18歳未満)

令和8年度の改定で追加された類型です。なお歯数のカウントについて、通知は「6歯以上の先天性部分無歯症及び連続した3歯以上の先天性欠如歯は、欠損している歯数に第三大臼歯(親知らず)は含めない」と明記しています[1]

④ 顎変形症の外科的矯正治療

顎の骨の位置や大きさに大きなずれがあり、顎離断等の手術を必要とする場合、その手術の前後の矯正治療(術前矯正・術後矯正)が保険の対象となります。手術だけでなく、その前後の矯正が一連のものとして給付されるのがこの類型の特徴です。

算定に関わる顎口腔機能診断料については、次のように定められています[1]

  • 顎変形症に係る顎口腔機能診断を行い、治療計画書を顎離断等の手術を担当する保険医療機関と連携して作成し、患者に文書により提供した場合に算定する
  • 算定できるのは5つの節目——歯科矯正を開始するとき、動的処置を開始するとき、マルチブラケット法を開始するとき、顎離断等の手術を開始するとき、保定を開始するとき——にそれぞれ1回限り
  • 診断内容には、咀嚼筋筋電図、下顎運動等の検査、歯科矯正セファログラム、口腔内写真、顔面写真および予測模型等による評価・分析が含まれる

この5段階が、外科的矯正治療の全体像そのものを示しています。治療計画書には、診断名や症状・所見に加え、両医療機関が共同して作成した手術予定日を含む治療計画、手術担当医療機関名・担当医氏名、矯正担当医療機関名・担当歯科医師氏名の記載が必要とされています。

最重要:届出をした医療機関でなければ適用されない

ここが最も見落とされやすく、そして最も重要な点です。条件に当てはまる病態であっても、施設基準を届け出ていない医療機関では保険適用になりません。

厚生労働省の通知(令和8年3月5日 保医発0305第8号)が定める施設基準の要点です[2]

区分主な要件
歯科矯正診断料
(略称「矯診」)
=①②③に対応
・歯科矯正セファログラムが行える機器を備えている
矯正治療の経験を5年以上有する専任の歯科医師が1名以上勤務
・常勤の歯科医師が1名以上配置
・手術を担当する診療科または別の医療機関との連携体制が整備されている
顎口腔機能診断料
(略称「顎診」)
=④に対応
障害者総合支援法に基づき都道府県知事から自立支援医療(育成医療・更生医療)の指定を受けた医療機関であること
・下顎運動検査、歯科矯正セファログラム、咀嚼筋筋電図検査が行える機器を備えている
・専任の常勤歯科医師および専従する常勤看護師または歯科衛生士がそれぞれ1名以上
・顎離断等の手術を担当する診療科または別の医療機関との連携体制

特筆すべきは顎診の1つ目の要件です。外科矯正を保険で行う医療機関は、必ず育成医療・更生医療の指定を都道府県知事から受けていることになります。これは他の解説ではあまり触れられていない、制度上の重要なポイントです。

なお届出先は地方厚生(支)局長であり、都道府県ではありません。「矯診」「顎診」は俗称ではなく、届出書の様式に実際に記載されている略称です[3]

また令和8年度改定では、届出のない医療機関でも算定できる「歯科矯正相談料」が新設されました。かかりつけ歯科医院でまず相談し、必要に応じて届出医療機関へつなぐという導線が制度化されたかたちです[1]

対応医療機関の調べ方

自分で確認する方法があります。日本矯正歯科学会が案内している手順です[4]

  1. 地方厚生(支)局のポータルから、お住まいの地域を管轄する厚生局のサイトへ
  2. サイト内で「施設基準届出受理医療機関名簿」を検索
  3. 都道府県別のPDFを開き、歯科の項目で「矯診」または「顎診」の記載を探す

手間はかかりますが、公的な一次情報で確認できる唯一の方法です。医院の広告表示だけで判断せず、名簿で裏を取ることをおすすめします。

外科的矯正治療の流れと用語

顎変形症の治療は、術前矯正 → 顎矯正手術 → 術後矯正 → 保定という流れで進みます。

日本顎変形症学会の統一用語では、プロセス全体を「外科的矯正治療」、手術そのものを「顎矯正手術」と呼び分けることが定められています[5]。術式名についても、下顎の代表的な術式は「下顎枝矢状分割法(Sagittal split ramus osteotomy;SSRO)」と表記し、「骨切り術」「咬合改善術」といった呼称や個人名を冠した名称は用いないとされています。上顎ではLe Fort I型骨切り術が代表的です[6]

手術について、日本顎変形症学会の解説から要点を引用します[7]

  • 全身麻酔下で行い、移動させた骨は為害作用のない材料のネジやプレートで固定する
  • 上下の顎を固定する期間は「1週間ほどの辛抱」(手術方法によっては3週間固定する場合もある)
  • 「基本的にはすべての操作を口腔内で行いますから、顔の外にずっとあとまで残る手術瘢を作ることはありません
  • ただし「骨の中にも太い血管や神経が通っていますから、切る位置や方向、量には様々な制約や限界があります。したがって、だれもが望みどおりに顎の形を自由に変えられるというわけではありません

最後の一文は、学会自身が明記している限界の説明です。誠実な情報提供として、あえてそのままお伝えします。

術後の安定性について

骨格性Class IIの患者1,079名を5〜13年追跡したシステマティックレビュー/メタアナリシスでは、ANBの角度増加とSNBの後方後戻りが認められたものの、臨床的に許容範囲とされる4°以内にとどまり、線形計測でも一部を除き許容範囲2mm以内でした。ただしデータの異質性と研究数の少なさから、エビデンスレベルは限定的とされています[8]。顔面非対称に対する49論文のレビューでも、硬組織・軟組織の対称性は有意に改善し、QOLも顔面・口腔・社会的領域で改善したものの、骨格的な後戻りは観察されたと報告されています[9]

高額療養費制度と費用の考え方

外科的矯正治療は入院・全身麻酔下の手術を伴うため、その月の医療費が高額になりやすい治療です。この場合、高額療養費制度が実質的に効きます。

高額療養費制度は、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が上限額を超えた場合に、その超えた額が支給される仕組みです。直近12か月で3回以上該当した場合、4回目以降はさらに上限額が下がる「多数回該当」もあります[10]

なお、この制度は令和8年8月から見直されています(月単位の負担限度額の見直し、年単位の上限額の新設、長期療養者への配慮強化、年収200万円未満の低所得世帯の負担軽減)。具体的な限度額は改正内容を反映した最新情報をご確認いただく必要があるため、本記事では金額を記載しません。厚生労働省のページで最新の内容をご確認ください。

一方、見た目の改善のみを目的とした矯正治療は、公的医療保険の対象外(自由診療)です。当院の矯正治療も、顎変形症など上記の条件に該当する場合を除き、自由診療となります。

よくあるご質問

Q. 矯正治療に保険は使えますか?

A. 原則は自由診療ですが、法令で定められた条件に該当する場合には公的医療保険の対象になります。厚生労働省の通知では、①厚生労働大臣が定める疾患に起因した咬合異常、②3歯以上の永久歯萌出不全(埋伏歯開窓術を必要とするもの)、③18歳未満で連続した3歯以上の先天性欠如歯、④顎離断等の手術を必要とする顎変形症の手術前後の療養、が限定列挙されています。

Q. 見た目が気になるだけでは保険は使えませんか?

A. 使えません。保険適用は「次のいずれかに該当する場合に限り」という限定列挙の構造になっており、列挙されていないものはすべて自由診療となります。審美的な改善のみを目的とする矯正治療は公的医療保険の対象外です。

Q. 先天性疾患があれば保険が使えますか?

A. どんな先天性疾患でもよいわけではなく、厚生労働大臣が定める68疾患に該当する必要があります。唇顎口蓋裂、ダウン症候群、ターナー症候群、6歯以上の先天性部分無歯症などが含まれます。なおリストの最後は「その他顎・口腔の先天異常」という包括規定になっており、個別に当局へ内議のうえ対象とできる場合があります。

Q. どこの歯科医院でも保険で矯正できますか?

A. できません。施設基準を地方厚生(支)局長に届け出た医療機関でなければ保険適用になりません。①〜③には「歯科矯正診断料(矯診)」、④には「顎口腔機能診断料(顎診)」の届出が必要です。特に顎診は、障害者総合支援法に基づく自立支援医療(育成医療・更生医療)の指定を受けた医療機関であることが要件に含まれています。

Q. 保険で矯正できる医療機関はどうやって探せばよいですか?

A. 地方厚生(支)局のサイトで「施設基準届出受理医療機関名簿」を検索し、都道府県別のPDFの歯科の項目で「矯診」または「顎診」の記載を確認する方法があります。公的な一次情報で確認できる方法ですので、広告表示だけで判断せず名簿でご確認いただくことをおすすめします。

Q. 顎変形症の手術後、顔に傷は残りますか?

A. 日本顎変形症学会は「基本的にはすべての操作を口腔内で行いますから、顔の外にずっとあとまで残る手術瘢を作ることはありません」と説明しています。一方で同学会は「骨の中にも太い血管や神経が通っているため、切る位置や方向、量には制約や限界があり、だれもが望みどおりに顎の形を自由に変えられるわけではない」とも明記しています。

Q. 外科的矯正治療は高額になりますか?

A. 保険適用となる場合は一部負担割合に応じたご負担となります。入院・全身麻酔下の手術を伴うため月の医療費が高額になりやすく、高額療養費制度をご利用いただけます。なお同制度は令和8年8月から見直されているため、具体的な限度額は厚生労働省のページで最新の内容をご確認ください。

参考文献

  1. 厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)別添2 歯科点数表」令和8年3月5日 保医発0305第6号. 厚生労働省(PDF)
  2. 厚生労働省「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」令和8年3月5日 保医発0305第8号(第86 歯科矯正診断料/第87 顎口腔機能診断料). 厚生労働省(PDF)
  3. 関東信越厚生局「[歯科矯正診断料]の施設基準に係る届出書」. 関東信越厚生局(PDF)
  4. 公益社団法人日本矯正歯科学会「矯正歯科治療が保険診療の適用になる場合とは」. 日本矯正歯科学会
  5. 日本顎変形症学会 編集査読委員会「顎変形症学会統一用語および用法(改定版)」令和元年4月22日改訂. 日本顎変形症学会(PDF)
  6. Alkharafi L, et al. Evaluating Post-surgical Stability and Relapse in Orthognathic Surgery. Cureus. 2024;16(10). PMC11582089
  7. 特定非営利活動法人日本顎変形症学会「顎変形症に関する基礎知識」. 日本顎変形症学会
  8. Evaluation of long-term hard tissue relapse following surgical-orthodontic treatment in skeletal class II patients: a systematic review and meta-analysis. Int J Oral Maxillofac Surg. 2021;50(4). PubMed 33041167
  9. Treatment outcome and long-term stability of orthognathic surgery for facial asymmetry: A systematic review and meta-analysis. Korean J Orthod. 2024;54(2). PMC10973727
  10. 厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」. 厚生労働省

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