矯正歯科

2026-08-22

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矯正の転院・他院でのやり直し|資料の引継ぎと費用の精算

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矯正治療中の転院で引き継ぐべき資料と費用の精算を、学会の倫理規程と日本臨床矯正歯科医会の返金目安をもとに解説。後戻りと再治療のエビデンスもお伝えします。

※写真はイメージです

矯正治療は数年かかるため、その途中で引越しや転勤が決まることがあります。また、装置を外したあとに歯並びが戻ってしまい、もう一度治療を考える方もいらっしゃいます。

この記事では、東京銀座NOVA矯正歯科が、転院(転医)のときに何を引き継ぎ、費用がどう精算されるのかを、日本矯正歯科学会の倫理規程や公益社団法人日本臨床矯正歯科医会が公表している返金割合の目安まで含めて解説します。あわせて、後戻りと再治療について研究データが何を示しているかもお伝えします。個別の判断には歯科医師の診察が必要です。

転院には学会のルールがあります

意外に知られていませんが、転院(学会用語では「転医」)の手続きは、日本矯正歯科学会の倫理規程に明文化されています。第35条の原文です[1]

患者の転居又は会員の事故(病気、死亡など)などの理由により患者が転医を必要とする場合には、会員は次のようなことに留意しなければならない。
1. 治療の継続を依頼する会員は必要資料を依頼先の歯科医に送る
2. 治療の継続を依頼された会員は、転医患者の矯正装置を変更する場合、その理由や加算料金などについて十分に説明し、患者の信頼を失わないように留意する。
3. 転医に際しての矯正費用の返金については別途定める指針を参考とする。

つまり資料を送るのは前の医院の責任であり、装置を変える場合は理由と追加費用を説明する義務が転院先にあるということです。「資料はもらえないものだ」と諦める必要はありません。

紹介状なしで別の医院に行った場合

同規程の第31条2項には、こう書かれています[1]

治療中である主治医の紹介がない状況で、患者が会員に対して治療の継続を求めてきた場合は……再び主治医を受診するように計らうことが望ましい。状況により治療の継続を引き受けなければならないと判断される場合には、それまでの主治医と連絡を取り、必要な検査資料と診療情報の提供を受け、円滑な治療の継続ができるように努めるべきである。

黙って別の医院に移るのではなく、まず現在の主治医に相談する——これが制度上の想定です。方針への不満が理由の場合も、いきなり転院を決めるより、まず改善策を相談するほうが結果的に早いことが多いと考えます。

引き継ぐべき資料の一覧

日本矯正歯科学会の『矯正歯科治療における標準治療の指針』(2022年)と、公益社団法人日本臨床矯正歯科医会が患者向けに案内している内容は、ほぼ一致しています[2][3]

区分内容
治療当初の資料頭部エックス線規格写真(セファログラム)、パノラマエックス線写真、デンタルエックス線写真、顔面写真、口腔内写真、上下歯列の石膏模型またはデジタルスキャンデータ
診断と契約治療当初の診断内容、治療費の契約内容
これまでの経過どのような治療が行われたか、用いられた矯正装置
費用実際に支払った治療費、転医に際して精算された治療費

これらをまとめた紹介状を作成してもらうのが基本の形です。とくに治療開始前のセファログラムと模型は、転院先が「もともとどういう状態だったのか」を知る唯一の手がかりになります。撮り直しでは代替できません。

費用の精算 — 特定商取引法は使えません

ここは正確にお伝えする必要があります。

エステティックや美容医療には、特定商取引法によってクーリング・オフや中途解約権が法律で保障されています。しかし歯列矯正はその対象ではありません。

「書かれていないから」という消極的な理由ではありません。特定継続的役務提供の7役務のうち歯科に関わりうるのは「美容医療」だけですが、政令が定める美容医療の目的は「皮膚の清潔・美化/体型/体重/歯牙を漂白する」に限定されており、さらに施行規則が方法を5つに限定列挙していて、歯に関するものは「歯牙の漂白剤の塗布による方法」のみです[4]。歯を動かして噛み合わせを整える治療は、目的にも方法にも該当しません。

その帰結を、国民生活センターが明快に書いています[5]

特定商取引法に該当しない契約は、原則、クリニックが定める解約に関する特約に従うことになります

参考までに、特商法が適用される美容医療では、中途解約金の上限が「提供前は2万円、提供後は既提供分+5万円または未提供分の20%の低い方」と法定され、8日間のクーリング・オフもあります。矯正治療にはこの保護がありません。

だからこそ、契約書の中途解約・返金条項を契約前に読むことが決定的に重要になります。

返金割合の目安(公表値)

とはいえ、まったく基準がないわけではありません。公益社団法人日本臨床矯正歯科医会は、「本会ならびに日本矯正歯科学会では、転医時の清算目安として次の返金目安が定められています」として、実際の数値を公表しています[3]

永久歯列期にマルチブラケット装置で治療中、費用を全額入金済みの場合の目安です。

治療のステップ返金割合の目安
全歯の整列60〜70%程度
犬歯の移動40〜60%程度
前歯の空隙閉鎖30〜40%程度
仕上げ20〜30%程度
保定0〜5%程度

あくまで目安であり、実際の精算は契約内容によります。同会は次の注意点もあわせて挙げています[3]

  • 転医の前後で、両方の医療機関でそれぞれ検査料・診断料が発生する場合がある
  • 転医先では治療方針が異なるため、精算された額以上に治療費がかかる可能性がある
  • 「矯正歯科治療は一つの医療機関で完結することが理想
  • 不満が理由であれば、まず現在の医療機関に改善策を相談することを強く推奨

マウスピース矯正の転院は難しいことがあります

マウスピース型矯正装置で治療中の場合、転院にはワイヤー矯正とは別の難しさがあります。

日本矯正歯科学会の『アライナー型矯正装置による治療指針』は、第5章のタイトルがそのまま「転医、返金」となっており、倫理規程第35条3項に則ることが規定されています[6]。学会が独立した章を設けていること自体、転医が論点になりやすい領域だという裏返しです。

同指針は海外で製作されるカスタムメイドの矯正装置について、「歯科技工士法上の矯正装置にも、薬事法上の医療機器にも該当しない」という厚生労働省の確認内容も記載しています[6]。装置の種類によっては、転院先で同じものを継続できるとは限りません。

また、学会のポジションステートメント(第二版)には、次の一文があります[7]

一度矯正歯科治療で誤った歯の移動を行なった場合、その改善を行う際には、長期の治療期間を要し、矯正治療の難易度が高くなります

転院を検討される際は、現在使用している装置が医療機器として承認されたものか、転院先で継続できるのかを、あらかじめ確認しておくことをおすすめします。

後戻りはどのくらい起こるのか

再治療を考える最も多い理由が「後戻り」です。まず、はっきりさせておくべきことがあります。

日本矯正歯科学会の『標準治療の指針』は、次のように明記しています[2]

保定は生涯にわたる歯列の維持安定を保証するものではない

学会公式の指針が、この立場を取っています。そして同じ指針が引用しているのが、Littleらによる長期追跡研究です。

研究結果
Little 1981(保定終了後10年以上、65症例)3分の2の患者で下顎前歯の並びが不良。長期的な反応は予測不能と結論[8]
Little 1988(保定後20年、31症例)臨床的に許容できる下顎の並びと判定されたのはわずか10%[9]
Little 1990下顎前歯の叢生は20〜40歳代、おそらくそれ以降も続く現象。親知らずの有無は後戻りにほとんど影響しない[10]

厳しい数字ですが、これが長期データの示す現実です。「後戻りしない矯正」は存在しません。

では保定方法を工夫すれば防げるのかというと、そこも明快ではありません。47研究・4,377名を統合した2023年のCochraneレビューは、「エビデンスの確実性は低いか非常に低く、ある保定方法が他より優れているという確固たる結論は導けない」と結論しています[11]。なお、このレビューはマウスピース型装置を用いた研究を除外している点にもご留意ください。

ただし、後戻りが起こりうることと、保定が無意味であることは別です。学会は「移動完了直後の歯はかなり動揺しています。従って、保定装置を使用しなければ、もとの悪い不正咬合に戻ってしまうことになりかねません」として、1年以上はできるだけ毎日の使用を求めています[12]

再治療で気をつけたいこと

後戻りに対して再治療を行うことは可能です。学会の指針も、協力不足・予期せぬ成長・口腔習癖・外傷などによる治療後の変化について「再治療が推奨されるかもしれない」としています[2]

そのうえで、知っておいていただきたい点が2つあります。

① 歯根吸収は治療期間と移動量に関係する

歯を動かすと、歯根の先端がわずかに溶ける歯根吸収が起こります。研究では次のように報告されています。

  • 成人88名の研究:歯根吸収を示す切歯は治療前15%から治療後73%へ、中等度〜重度は2%から24.5%へ増加[13]
  • 治療期間との相関はr=0.852、根尖の移動量との相関はr=0.822[14]
  • システマティックレビュー:強い力は特に有害である可能性があり、2〜3か月の治療休止で総吸収量が減少[15]
  • 868名の研究では、アジア系は白人・ヒスパニック系より歯根吸収が有意に少ないと報告されています[16]

ここで誠実にお伝えしておきます。「再治療そのものが歯根吸収を増やす」ことを直接検証した研究は、現時点で確認できていません。ただし治療期間と移動量が主要な因子と報告されている以上、2回目の治療で総期間と総移動量が増える分だけ、理論上はリスク要因が上乗せされると考えられます。これは推論であり、直接の実証データはありません。

② 歯肉退縮のリスク

48論文を検討したシステマティックレビューでは、矯正患者で歯肉退縮の有病率が有意に高いとした研究が15論文中10論文、下顎前歯の唇側傾斜で退縮が増えたとする研究が16論文中10論文ありました[17]。なおこのレビューにメタ解析はなく、統合された数値は存在しません。

再治療を検討する際は、「なぜ後戻りしたのか」の原因を特定することから始まります。保定装置の使用状況、親知らずの影響、加齢に伴う変化、成長のパターンなど、原因によって取るべき対応が変わります。原因を確かめずに同じ治療を繰り返しても、同じ結果になりかねません。

転院時のチェックリスト

公益社団法人日本臨床矯正歯科医会の「7つの提言」などをもとに整理しました[18]

契約の段階で

  1. 治療契約書を必ず取り交わし、内容を理解し納得してから契約する
  2. 通院できなくなった場合の転医の方法、治療中止時の治療費の取り扱いを含む事後対応の説明を受ける
  3. 支払い方法を確認し、変更は書面で。契約書と領収書を保存する

転院が決まったら

  1. 決まった時点ですぐ主治医に相談し、紹介状を作成してもらう
  2. 資料一式(セファログラム、パノラマ、顔面・口腔内写真、石膏模型またはスキャンデータ、当初の診断内容、契約内容、実施済みの治療内容と装置、支払額、精算額)を受け取る
  3. 精算額を書面で確認する(進行段階に応じた目安と照らし合わせる)
  4. 転院先で別途検査料・診断料が発生するか、方針変更で追加費用が出るかを事前に確認する
  5. マウスピース治療中の場合、装置の継続可否と、医療機器として承認された装置かどうかを転院先に確認する

よくあるご質問

Q. 引越しで通えなくなりました。転院はできますか?

A. できます。日本矯正歯科学会の倫理規程第35条に、患者さんの転居などで転医が必要になった場合、依頼する側の歯科医師が必要資料を依頼先に送ることが定められています。まずは現在の主治医にご相談ください。

Q. 転院のとき、どんな資料を引き継いでもらえばよいですか?

A. 治療開始前のセファログラム、パノラマエックス線写真、顔面写真、口腔内写真、上下歯列の石膏模型またはスキャンデータ、当初の診断内容と契約内容、これまでの治療経過と使用した装置、支払額と精算額です。これらをまとめた紹介状を作成してもらうのが基本です。特に治療開始前の資料は撮り直しでは代替できません。

Q. 治療費は返金してもらえますか?

A. 契約内容によります。歯列矯正は特定商取引法の特定継続的役務提供に該当しないため、クーリング・オフや法定の中途解約権は適用されず、国民生活センターも「特定商取引法に該当しない契約は、原則、クリニックが定める解約に関する特約に従うことになります」としています。契約書の解約条項をご確認ください。

Q. 返金額の目安はありますか?

A. 公益社団法人日本臨床矯正歯科医会が、永久歯列期のマルチブラケット装置で全額入金済みの場合の目安を公表しています。全歯の整列の段階で60〜70%程度、犬歯の移動で40〜60%程度、前歯の空隙閉鎖で30〜40%程度、仕上げで20〜30%程度、保定で0〜5%程度です。あくまで目安であり、実際の精算は契約内容によります。

Q. マウスピース矯正でも転院できますか?

A. 装置によっては転院先で同じものを継続できない場合があります。日本矯正歯科学会の指針では、海外で製作されるカスタムメイドの矯正装置について、歯科技工士法上の矯正装置にも薬事法上の医療機器にも該当しないという厚生労働省の確認内容が記載されています。現在の装置が医療機器として承認されたものかを含め、転院先に事前にご確認ください。

Q. 矯正が終わったのに歯が戻ってきました。よくあることですか?

A. 残念ながら起こりうることです。日本矯正歯科学会の標準治療の指針も「保定は生涯にわたる歯列の維持安定を保証するものではない」と明記しています。保定終了後10年以上を追跡した研究では3分の2の患者さんで下顎前歯の並びが不良、20年後では臨床的に許容できる並びが10%だったという報告があります。

Q. もう一度矯正することはできますか?

A. 可能な場合があります。ただしまず「なぜ後戻りしたのか」の原因を特定することが重要です。保定装置の使用状況、加齢に伴う変化、成長のパターンなど、原因によって対応が変わります。また日本矯正歯科学会は、誤った歯の移動が行われた場合の改善には長期の治療期間を要し難易度が高くなるとしています。適応の判断には診査・診断が必要です。

Q. 再治療すると歯根が溶けるリスクは高くなりますか?

A. 再治療そのものが歯根吸収を増やすと直接示した研究は、現時点で確認できていません。ただし研究では治療期間との相関がr=0.852、根尖の移動量との相関がr=0.822と報告されており、2回目の治療で総期間と総移動量が増える分だけ理論上はリスク要因が上乗せされると考えられます。これは推論であり、直接の実証データはありません。

参考文献

  1. 倫理規程(平成29年6月26日最終改正)/公益社団法人日本矯正歯科学会(第35条 転医、第31条 主治医の尊重). PDF
  2. 矯正歯科治療における標準治療の指針(2022)/日本矯正歯科学会. PDF
  3. 転医についてのご相談/公益社団法人日本臨床矯正歯科医会. 日本臨床矯正歯科医会
  4. 特定商取引に関する法律・逐条解説 第4章/消費者庁(2024). PDF
  5. 美容医療サービスはクーリング・オフできる?/独立行政法人国民生活センター(2021年7月7日). 国民生活センター
  6. アライナー型矯正装置による治療指針(平成29年2月27日)/日本矯正歯科学会. PDF
  7. ポジションステートメント「マウスピース型矯正装置による治療に関する見解」第二版(2022年7月15日)/日本矯正歯科学会. 日本矯正歯科学会
  8. Little RM, Wallen TR, Riedel RA. Stability and relapse of mandibular anterior alignment—first premolar extraction cases treated by traditional edgewise orthodontics. Am J Orthod. 1981;80(4):349–365. PubMed 6945805
  9. Little RM, Riedel RA, Årtun J. An evaluation of changes in mandibular anterior alignment from 10 to 20 years postretention. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 1988;93(5):423–428. PubMed 3163221
  10. Little RM. Stability and relapse of dental arch alignment. Br J Orthod. 1990;17(3):235–241. PubMed 2207055
  11. Martin C, Littlewood SJ, Millett DT, et al. Retention procedures for stabilising tooth position after treatment with orthodontic braces. Cochrane Database Syst Rev. 2023;5(5):CD002283. PMC10202160
  12. 矯正歯科治療について/日本矯正歯科学会. 日本矯正歯科学会
  13. Lupi JE, Handelman CS, Sadowsky C. Prevalence and severity of apical root resorption and alveolar bone loss in orthodontically treated adults. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 1996;109(1):28–37. PubMed 8540480
  14. Segal GR, Schiffman PH, Tuncay OC. Meta analysis of the treatment-related factors of external apical root resorption. Orthod Craniofac Res. 2004;7(2):71–78. PubMed 15180086
  15. Weltman B, Vig KWL, Fields HW, et al. Root resorption associated with orthodontic tooth movement: a systematic review. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2010;137(4):462–476. PubMed 20362905
  16. Sameshima GT, Sinclair PM. Predicting and preventing root resorption: Part I. Diagnostic factors. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2001;119(5):505–510. PubMed 11343022
  17. Cadenas de Llano-Pérula M, et al. Risk factors for gingival recessions after orthodontic treatment: a systematic review. Eur J Orthod. 2023;45(5):528–544. PubMed 37432131
  18. 安心できる矯正歯科治療契約のための「7つの提言」/公益社団法人日本臨床矯正歯科医会. 日本臨床矯正歯科医会

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