矯正歯科

2026-08-13

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矯正中の口内炎・粘膜の傷|原因と対処、受診すべきサイン

矯正中の口腔ケア イメージ

矯正装置が当たってできる口内炎(外傷性潰瘍)の仕組みと対処法を解説。矯正用ワックスや含嗽剤の効果、ワイヤー矯正とマウスピース矯正での違い、そして受診の目安をお伝えします。

※写真はイメージです

矯正装置を付けた直後、頬の内側や唇が装置に擦れて痛む——多くの方が最初の1か月で経験するトラブルです。これは外傷性潰瘍と呼ばれる、機械的な刺激による粘膜の傷です。

この記事では、東京銀座NOVA矯正歯科が、矯正中の口内炎がなぜ・どこにできるのか、矯正用ワックスや含嗽剤にどこまで効果があるのか、そして受診すべきサインを、臨床研究と公的ガイドラインをもとに解説します。症状には個人差があり、実際の対応は歯科医師の診察が必要です。

なぜできるのか — 外傷性潰瘍のしくみ

矯正中の口内炎の多くは、装置が粘膜と繰り返し擦れることで生じる「外傷性潰瘍」です。ウイルスや体調不良が原因のアフタ性口内炎とは、成り立ちが異なります。

ブラケット(歯に接着する土台)の角、頬側に張り出したワイヤーの末端、バンドの縁などが、頬粘膜・口唇粘膜・舌の側面と繰り返し接触します。反復的な摩擦によって粘膜の上皮が破壊され、その下の結合組織が露出すると、有痛性の潰瘍面ができあがります。

マウスピース型矯正装置の場合は突出した構造が少ないものの、辺縁(歯ぐきの際にあたるプラスチックの縁)が鋭かったり長すぎたりすると、歯肉や粘膜を圧迫・切創することがあります。

いつ・どこにできやすいか

12〜30歳の70名を対象とした二重盲検・プラセボ対照のランダム化比較試験では、装置装着後1か月以内に摩擦と刺激により潰瘍が生じうること、そして最も頻度の高い部位は頬粘膜であることが報告されています[1]

矯正装置装着者60名と対照51名(6〜18歳)を比較した研究でも、歯肉の炎症・びらん・潰瘍・挫傷が矯正患者で最も一般的な所見であり、粘膜病変は装置装着者で対照より多く認められました。歯肉炎の重症度は口腔清掃状態と相関していました[2]

つまり、「最初の1か月」「頬の内側」が最も注意すべき時期と場所です。裏を返せば、この山を越えれば粘膜側も慣れていきます。

ワイヤー矯正とマウスピース矯正での違い

成人60名(マウスピース型30名 vs 固定式30名)を、年齢・治療様式・担当医でマッチングした観察研究の結果です[3]

項目結果
粘膜潰瘍マウスピース群が有意に少ない(p=0.01)
咀嚼能力マウスピース群が良好(p<0.001)
食事制限マウスピース群が少ない(p=0.02)
発音の困難マウスピース群が有意に多い(p=0.035)
日常生活への影響・鎮痛薬使用・総合満足度有意差なし

著者らの結論は「マウスピース型は必ずしも快適とは言えないが、食事の自由と粘膜潰瘍がないことにおいて許容性が高い」というものでした。つまり「楽になる」のではなく「つらさの種類が入れ替わる」と理解するのが正確です。

なおプラーク指標については、システマティックレビューでアライナー群が開始後6〜12週で0.58低いと報告されていますが、炎症指標には差の根拠がなく、GRADEによる確実性は低〜非常に低いと評価されています[4]

矯正用ワックス・粘膜保護材のエビデンス

装置の当たる部分に貼りつけて刺激を和らげるのが矯正用ワックスです。11〜14歳の240名を対象に、ワックスと粘膜保護パッチを比較した研究があります[5]

  • すべての観察時点で、粘膜保護パッチ群がワックス群よりVAS疼痛スコアが低かった(P<0.01)
  • 著者の結論:「粘膜保護材は矯正装置に伴う粘膜の不快感を効果的に軽減し、従来の矯正用ワックスの代替となりうる」

ただし注意が必要です。この研究の対照群は「創ができなかった患者」であり、真の無処置対照ではありません。効果の解釈は慎重であるべきで、ワックスの予防効果を示した質の高い研究は限られています。

実務的には、ワックスは「痛みが出てから貼る」より「当たると分かっている場所に先に貼る」ほうが理にかなっています。粘膜は一度傷つくと治るまで時間がかかるためです。

うがい薬は予防になるのか

含嗽剤(マウスウォッシュ)で口内炎を予防できるか——これを直接検証した二重盲検・プラセボ対照RCTがあります。12〜30歳70名に、ブラケット装着後28日間、1日2回クルクミン(ウコン抽出物)含嗽剤またはプラセボを使用してもらいました[1]

  • 外傷性潰瘍の発生率・持続期間ともにプラセボと有意差なし(p>0.05)
  • ただし1〜2週目の疼痛スコアは有意に低かった(p<0.05)。3週目以降は差なし
  • 矯正用ワックスの使用量に群間差なし。有害事象なし

要約すると、潰瘍そのものの予防効果は示されなかったが、初期の痛みの緩和には補助的に役立つ可能性があるということです。「うがい薬で口内炎を防げる」という表現は、現時点のエビデンスからは踏み込みすぎです。

痛みへの対処 — レーザーと鎮痛薬の位置づけ

ここで重要な区別をしておきます。以下で紹介するエビデンスは、いずれも「矯正力による歯の痛み」に対するものであり、「口内炎・潰瘍の治癒促進」を直接検証したものではありません。混同すると効果を誇大に伝えることになります。

鎮痛薬(Cochraneレビュー)

32件のランダム化比較試験・3,110名(解析2,348名)を統合したCochraneレビューでは、鎮痛薬は無処置/プラセボと比べ、0〜100mmのVASで2時間後に−11.66mm、6時間後に−24.27mm、24時間後に−21.19mmの疼痛軽減を示しました(中等度の質のエビデンス)。NSAIDsとアセトアミノフェンの間には24時間時点で差の根拠がありませんでした[6]。服用にあたっては歯科医師・薬剤師の指示に従ってください。

低出力レーザー(LLLT)

20件のRCTを統合したメタアナリシスでは、LLLTが矯正力適用後の自発痛・咀嚼時痛を有意に軽減したものの、著者らは「エビデンスの質が低いため結果は慎重に扱う必要がある」と結論しています(20件中13件が高バイアスリスク)[7]。31RCTを対象とした別のメタアナリシスでは、セパレーター装着後の疼痛をVASで6時間後13.79mm、24時間後23.34mm軽減したと報告されていますが、エビデンスの強さは「弱〜中等度」とされています[8]

医院で行う対応

矯正の緊急対応を扱ったシステマティックレビューでは、最も多い訴えは不快感と痛み、装置の破損・脱落、ワイヤー遠心端の突出、ブラケットやリテーナーの脱離であり、対応として矯正用ワックスの使用、突出したワイヤー末端の切断、脱離した装置の除去・再装着が挙げられています[9]

マウスピースの辺縁が当たる場合は、辺縁を調整する処置が臨床で広く行われています。ただしその有効性を検証した比較研究は確認できておらず、エビデンスの空白領域です。

いずれにせよ、我慢し続けるより連絡していただくほうが早く解決します。ワイヤーが飛び出しているといった原因が明らかな場合、その場で解消できることがほとんどです。

受診すべきサイン — 3週間を超える潰瘍

矯正装置が当たっている場所とは関係なく、原因のはっきりしない潰瘍が長引く場合には、別の精査が必要になることがあります

英国NICEのガイドライン NG12(がんの疑いに関する認識と紹介)勧告1.8.2は、「口腔内の原因不明の潰瘍が3週間を超えて持続する場合、または頸部に持続する原因不明の腫瘤がある場合、がん疑い経路での紹介を考慮する」としています。あわせて勧告1.8.3では、口唇または口腔内の腫瘤、赤色または赤白色の斑がある場合に、口腔がん評価のための緊急紹介を考慮するとされています[10]

矯正中の外傷性潰瘍は、通常は原因(当たっている装置)を取り除けば治っていきます。原因を除いても治らない、あるいは3週間を超えて続く場合には、自己判断せず歯科医師の診察をお受けください。

よくあるご質問

Q. 矯正中の口内炎はなぜできるのですか?

A. 多くは装置が粘膜と繰り返し擦れることで生じる「外傷性潰瘍」です。ブラケットの角やワイヤーの末端、バンドの縁が頬や唇の内側と接触し、上皮が破壊されて有痛性の潰瘍面ができます。マウスピース型でも、辺縁が鋭い場合に歯肉や粘膜を刺激することがあります。

Q. いつごろ、どこにできやすいですか?

A. 研究では、装置装着後1か月以内に生じることが多く、最も頻度の高い部位は頬の粘膜であると報告されています。時期を過ぎると粘膜側も慣れていくのが一般的ですが、個人差があります。

Q. マウスピース矯正なら口内炎になりませんか?

A. 成人60名を比較した研究では、マウスピース型のほうが粘膜潰瘍が有意に少なかったと報告されています(p=0.01)。ただしゼロになるわけではなく、装置の辺縁による刺激は起こりえます。一方で同じ研究では、発音の困難はマウスピース型で有意に多いという結果も出ています。

Q. 矯正用ワックスは効果がありますか?

A. 刺激部位を覆う一般的な対処法です。240名を対象とした比較試験では、粘膜保護材のほうがワックスより疼痛スコアが低かったと報告されています。ただしこの研究の対照群設定には限界があり、ワックスの予防効果を示した質の高い研究は限られています。当たると分かっている部位に、痛む前から使うことをおすすめします。

Q. うがい薬で口内炎を予防できますか?

A. クルクミン含嗽剤を用いた二重盲検のランダム化比較試験では、外傷性潰瘍の発生率・持続期間ともにプラセボとの差は認められませんでした。ただし1〜2週目の疼痛スコアは有意に低く、初期の痛みの軽減には役立つ可能性があります。

Q. レーザーで口内炎は治りますか?

A. 低出力レーザーについては、矯正力による歯の痛みの軽減に関する報告がありますが、エビデンスの質は低い〜中等度で確実性は高くありません。また、これらの研究は潰瘍そのものの治癒促進を直接検証したものではない点にご注意ください。

Q. 口内炎がなかなか治りません。受診の目安はありますか?

A. 英国NICEのガイドラインでは、原因不明の口腔内潰瘍が3週間を超えて持続する場合、精査の対象として紹介を考慮すべきとされています。矯正中の外傷性潰瘍は原因となる部位への対応で改善することが多いため、まずは当院にご相談ください。自己判断で長く様子を見ることは避けてください。

参考文献

  1. Somprajob C, et al. Effectiveness of curcumin mouthwash in preventing traumatic ulcers in orthodontic patients. BMC Oral Health. 2025;25(1):1725. PMC12581252
  2. Baricevic M, et al. Oral mucosal lesions during orthodontic treatment. Int J Paediatr Dent. 2011;21(2):96–102. PubMed 21121986
  3. Alajmi S, et al. Comparison of Short-Term Oral Impacts Experienced by Patients Treated with Invisalign or Conventional Fixed Orthodontic Appliances. Med Princ Pract. 2020;29(4):382–388. PMC7445657
  4. Oikonomou E, et al. Impact of Aligners and Fixed Appliances on Oral Health during Orthodontic Treatment. Oral Health Prev Dent. 2021;19:659–672. PMC11641221
  5. Pasaoglu Bozkurt A, Buyukbasaran E. Effects of orthodontic wax and ora-aid on pain and discomfort at the beginning of orthodontic treatment. Clin Oral Investig. 2024;28(12):636. PubMed 39523230
  6. Monk AB, et al. Pharmacological interventions for pain relief during orthodontic treatment. Cochrane Database Syst Rev. 2017;11(11):CD003976. PMC6486038
  7. Deana NF, et al. Effectiveness of Low-Level Laser Therapy in Reducing Orthodontic Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. Pain Res Manag. 2017;2017:8560652. PMC5635293
  8. Al-Hanbali LMS, et al. The effectiveness of interventions in reducing pain related to orthodontic separation. Eur J Orthod. 2024;46(1):cjad078. PubMed 38168817
  9. Saccomanno S, et al. Utility of Teleorthodontics in Orthodontic Emergencies during the COVID-19 Pandemic. Healthcare (Basel). 2022;10(6):1108. PMC9222949
  10. National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Suspected cancer: recognition and referral (NG12) 勧告1.8.2・1.8.3. NICE NG12

対応エリア

東京銀座NOVA矯正歯科は、銀座・有楽町・東銀座・築地・新橋・日本橋・八重洲・丸の内・京橋エリアからご来院いただいています。装置が当たって痛むときは、次回のご予約を待たずにご連絡ください。当院の矯正治療は自由診療です(公的医療保険の対象外)。症状には個人差があります。

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