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矯正歯科

2026-08-12

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矯正のゴムかけ(顎間ゴム)は何のため?効果と副作用をエビデンスで解説

矯正の調整 イメージ

矯正治療で行うゴムかけ(顎間ゴム)の目的と仕組みを解説。骨格は変えられるのか、歯根吸収のリスク、装着時間が結果に与える影響を、システマティックレビューやCochraneレビューの数値でお伝えします。

※写真はイメージです

矯正治療が進むと、上下の歯に小さな輪ゴムをかける「ゴムかけ」が始まることがあります。専門的には顎間ゴムと呼ばれ、自分で毎日着け外しをする必要があるため、「本当に必要なのか」「サボるとどうなるのか」と気になる方が多い処置です。

この記事では、東京銀座NOVA矯正歯科が、顎間ゴムが実際に何を動かしているのか、骨格は変えられるのか、副作用や歯根吸収のリスク、そして装着時間が結果にどう効くのかを、システマティックレビューやCochraneレビューの数値で解説します。効果には個人差があり、必要性の判断は歯科医師の診断によります。

ゴムかけ(顎間ゴム)とは何をしているのか

顎間ゴムとは、上顎と下顎の装置のフックの間に小さな医療用ゴムを架け、上下の歯列を相対的に引き合わせる処置です。ワイヤー矯正でもマウスピース矯正でも用いられます。

ワイヤーやマウスピースは、基本的に同じ顎の中で歯を並べる装置です。ところが、上下の噛み合わせ全体が前後にずれている場合、片方の歯列を整えるだけでは噛み合いません。そこで上下をまたいで力をかける必要があり、その役割を担うのが顎間ゴムです。

かけ方目的
II級ゴム(上の前歯側→下の奥歯側)上顎の歯列を後方へ、下顎の歯列を前方へ。出っ歯傾向(Class II)の改善
III級ゴム(下の前歯側→上の奥歯側)II級と逆方向。受け口傾向(Class III)の改善
斜めのゴム上下の正中(真ん中)のズレを合わせる
垂直ゴム上下の歯を寄せて噛み合わせを緊密にする

「顎の骨が変わる」のか — 効果は主に歯槽性

ここが最も誤解されやすい点です。顎間ゴムの効果は、主として歯とその周囲の骨のレベル(歯槽性)で起こるものであり、顎の骨そのものの成長を大きく改変するものではありません。

417件から11件を厳選したシステマティックレビュー(研究の異質性が大きくメタ解析は実施不能)は、「II級ゴムはClass II不正咬合の改善に有効であり、その効果は主に歯槽性である。したがって長期的には固定式の機能的矯正装置の効果と類似する」と結論しています[1]

つまり、噛み合わせは改善しますが、「ゴムをかけると顎が伸びて輪郭が変わる」という説明は、現在のエビデンスからは支持できません。

装置を変えても骨格的な上乗せはわずか

顎間ゴムの代わりに、患者さんの協力を必要としない固定式の装置(ハーブスト装置、フォーサス装置など)を使う方法もあります。これらのほうが骨格的に有利なのでしょうか。9研究・298例を統合したメタアナリシスの結果です[2]

  • ハーブスト/フォーサス vs II級ゴム:オーバーバイト・オーバージェット・SNA・SNB・下顎切歯傾斜に差なし
  • ハーブスト vs II級ゴム:上顎・下顎頭・下顎窩の変化の大部分に差なし。例外は下顎長が1.5mm、下顎枝高が1.6mm大きく増加した点のみ
  • ハーブストは下顎大臼歯をより近心(前方)へ移動させた
  • フォーサスは大臼歯関係の改善・オーバージェット減少・上顎切歯のコントロールでII級ゴムより有効

装置を変えても骨格的な差は1.5mm程度——これが現時点で言える範囲です。骨格的な不調和が大きい場合には、成人では外科的な対応の検討が必要になることがあります。

副作用として何が起こるか

II級の片側性症例28例を対象としたマッチド無作為化研究(フォーサス vs 顎間ゴム)から、実際に生じた変化を見てみます[3]

  • 下顎切歯の唇側傾斜:両群とも生じた(p<0.001)が、群間に差はなかった(p>0.05)。「ゴムだけが下の前歯を前に倒す」わけではない、という重要な補正点です
  • ゴム群で大きかった変化:上顎切歯の挺出と口蓋側傾斜、咬合平面の時計回りの回転(p<0.05)
  • 下顎切歯は、フォーサス群では圧下、ゴム群では挺出(群間差 p<0.05)
  • 治療期間:フォーサス4.53±0.91か月 vs ゴム6.85±1.08か月(ゴムのほうが有意に長い)

顎関節への影響については、有害と示す質の高いエビデンスは確認されていません。前述のメタアナリシスでも、下顎頭・下顎窩の変化に装置間の差は認められませんでした[2]。ただし、2013年のレビューは「II級ゴムの軟組織への影響についてはほとんど注意が払われてこなかった」と研究の空白を指摘しており[1]、「安全だと証明されている」のではなく「調べられていない」というのが正確な理解です。

歯根は溶けるのか — 比較データ

「ゴムをかけると歯根が溶ける」という不安を耳にすることがあります。これを直接調べた研究があります。

II級ゴム群27例とヘッドギア群27例を、初診年齢・治療期間・オーバージェット・初診時の重症度・最終的な咬合状態などでマッチングして比較したところ、両群間で歯根吸収量に統計学的な有意差は認められませんでした。著者らは「根尖部の歯根吸収は概して軽度で、両群で同程度であった」と記載しています[4]

ただし歯根吸収は矯正治療一般に伴うリスクであり、ゴムの有無にかかわらず生じうるものです。個人差があり、治療中の画像による確認が行われます。

サボるとどうなるか — 協力度と治療期間

顎間ゴムは着けている時間だけ力が働きます。外している時間は、計画された移動が進みません。

青年期の患者さん14名への面接調査では、「ゴム装着のコンプライアンス(遵守度)は患者間で非常にばらつきが大きかった」と報告されています。障壁として挙げられたのは、ゴムの利点が実感できないこと、思い出すきっかけがないこと、痛み、食事、人前での場面、スポーツ、ゴムの紛失・破損でした[5]

逆に、指示どおり装着できた場合の結果も報告されています。成人のII級症例40例では計画量の95%の前後的改善を達成し、100%が米国矯正歯科委員会(ABO)の基準を満たしました。ただしこの研究は「指示どおりにゴムを装着していた患者のみを後ろ向きに組み入れた」ことを著者自身が限界として明記しています[6]

言い換えれば、「ちゃんと着ければ結果は出る。しかし”ちゃんと着けた人だけ”を見た研究である」ということです。前述のとおり、協力を必要としないフォーサスでは同等の改善が約2.3か月短く達成されており[3]、協力度が期間に直結することが間接的に裏づけられます。

いつまで続けるのか

上記研究でのゴム使用期間は平均約6.9か月(II級片側性症例)でしたが、症例により大きく異なります。必要な期間は歯科医師の診断によります。

なお、小児期の早期治療については2018年のCochraneレビューが参考になります。7〜11歳での早期治療と思春期での治療を比較したところ、最終的なオーバージェットとANB(上下顎の前後的な位置関係を示す角度)に差はありませんでした。一方で、早期治療は前歯の外傷を減らした(後期治療群30% vs 早期治療群19%)と報告されています[7]

続けるための具体的な工夫

面接調査で挙がった障壁を、そのまま裏返したのが以下の項目です。

  • 「思い出すきっかけ」を物理的に置く:洗面台・デスク・カバンの3か所に予備を分散させておくと、外した後に着け忘れる場面が減ります
  • 外す場面をあらかじめ決めておく:食事と歯みがきのときだけ外す、と決めておくと判断のたびに迷わずに済みます
  • 予備を多めに受け取る:ゴムは消耗品です。切れた・なくしたを理由に中断しないよう、余裕をもって持っておきましょう
  • 痛みは初期に強い:かけ始めの数日が最もつらく、その後は慣れていくのが一般的です。つらい時期に外してしまうと、また同じ痛みを繰り返すことになります
  • 難しければ相談する:どうしても続けられない場合、協力を必要としない装置に切り替えられることがあります。黙って外し続けるより、正直にお伝えいただくほうが結果につながります

よくあるご質問

Q. 矯正のゴムかけ(顎間ゴム)は何のために行うのですか?

A. 上顎と下顎の装置の間にゴムを架け、上下の歯列を相対的に引き合わせるための処置です。ワイヤーやマウスピースは基本的に同じ顎の中で歯を並べる装置のため、上下の噛み合わせのズレを整えるには上下をまたいだ力が必要になります。正中のズレを合わせたり、噛み合わせを緊密にする目的でも使われます。

Q. ゴムかけで顎の骨や輪郭は変わりますか?

A. システマティックレビューでは、II級ゴムの効果は主に歯とその周囲の骨のレベル(歯槽性)の変化であると報告されています。顎の骨そのものを大きく変える効果は限定的です。装置を変えた比較でも骨格的な差は下顎長で約1.5mm程度にとどまっており、骨格的な不調和が大きい場合は別の対応の検討が必要になることがあります。

Q. ゴムかけをすると歯根が溶けると聞きました。本当ですか?

A. II級ゴムを使用した群とヘッドギアを使用した群を条件を揃えて比較した研究では、歯根吸収量に統計学的な有意差は認められず、程度は概して軽度であったと報告されています。ただし歯根吸収はゴムの有無にかかわらず矯正治療一般に伴うリスクであり、個人差があります。

Q. ゴムかけの副作用はありますか?

A. 一般に、上顎前歯の挺出や口蓋側への傾斜、咬合平面の回転、下顎前歯の唇側傾斜などが報告されています。なお下顎前歯の唇側傾斜については、比較対象となった固定式装置でも同程度に生じており、ゴム特有の副作用ではありませんでした。顎関節への影響については質の高い研究が乏しく、確実性は低いのが現状です。

Q. ゴムかけはいつまで続ける必要がありますか?

A. ある研究ではII級の片側性症例で平均約6.9か月でしたが、必要な期間は症例により大きく異なります。歯科医師の診断によりますので、担当医にご確認ください。

Q. ゴムかけを忘れるとどうなりますか?

A. 顎間ゴムは着けている時間だけ力が働くため、外している時間が長いほど計画された歯の移動が進まず、治療期間の延長につながりうると考えられています。研究では、患者さんによって装着状況のばらつきが非常に大きいことが報告されています。続けるのが難しい場合は、協力を必要としない装置への変更を検討できることもありますので、ご相談ください。

参考文献

  1. Janson G, et al. Correction of Class II malocclusion with Class II elastics: a systematic review. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2013;143(3):383–392. PubMed 23452973
  2. Matthaios S, et al. Dental and Skeletal Effects of Herbst Appliance, Forsus Fatigue Resistance Device, and Class II Elastics—A Systematic Review and Meta-Analysis. J Clin Med. 2022;11(23):6995. PMC9741176
  3. Aras I, Pasaoglu A. Class II subdivision treatment with the Forsus Fatigue Resistant Device vs intermaxillary elastics. Angle Orthod. 2017;87(3):371–376. PMC8381987
  4. Janson G, et al. Root resorption in Class II malocclusion treatment with Class II elastics. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2016;150(4):585–591. PubMed 27692415
  5. Veeroo HJ, et al. Motivation and compliance with intraoral elastics. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2014;146(1):33–39. PubMed 24974996
  6. Janssens Y, et al. Quality of occlusal outcome in adult Class II patients treated with completely customized lingual appliances and Class II elastics. Eur J Orthod. 2024;46(5):cjae031. PMC11358590
  7. Batista KB, et al. Orthodontic treatment for prominent upper front teeth (Class II malocclusion) in children and adolescents. Cochrane Database Syst Rev. 2018;3(3):CD003452. PMC6494411

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